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VOL.6「老人ホームの人員配置が3:1から3:0.9に」ってどういうこと?介護とITとDX

今回は、7月31日にSOMPOケアが発表をした、介護施設の運営体制の変更について解説いたします。


先日、大手介護事業者であるSOMPOケアが、全国の老人ホームで「職員の配置基準」を見直すというニュースが報じられました。これまでは「入居者:介護職員」の割合を「3:1」という基準で配置をする義務がありました。
それが昨年度の介護報酬改定時に厚労省は新たに「3:0.9」という新しい基準の制度を発表しました。

介護職員の割合が減っているので、介護職員の人数は減ってしまうような制度です。

介護業界で勤める者として、介護施設を紹介する者としてはとても関心のあるニュースでした。
介護業界に大きな影響を与える「老人ホームの人員配置に関する新しい動き」について、介護の知識がない方にもわかりやすく解説します。

老人ホームにおける「人員配置3:1」って何?

まず、「人員配置3:1」という数字の意味から解説します。

老人ホーム(特に「介護付き有料老人ホーム」)では、介護職員が入居者の生活をサポートしています。
このとき、国の定める最低限のルールとして「入居者3人に対して介護職員1人を配置しなければいけない」という決まりがあります。これが「3:1の人員配置基準」です。

つまり、入居者が30人いれば、最低でも10人の介護職員を配置する必要があるということです。老人ホームの安全性や、入居者一人ひとりに丁寧なケアを行うための最低限のラインとして、このルールは長年守られてきました。


特別養護老人ホーム(特養)→3:1
老人保健施設(老健)    →3:1
グループホーム      →3:1
上記の施設にも介護職員の人員配置は「介護保険法」にて定められています。
基準を満たすことで、施設は基本報酬を受け取ることができます。
基準を下回ると、報酬減額・改善命令、場合によっては指定取消しになる場合もあります。

「3:0.9」ってどういうこと?その“凄さ”とは?

今回、SOMPOケアが一部の老人ホームで取り入れた「3:0.9」という配置は、この基準よりさらに職員の数を減らしても良いということを意味します。

正確に言うと、「3人の入居者に対して0.9人の職員を配置する」ことになります。これをわかりやすくすると、たとえば30人の入居者に対して、これまでは最低10人の職員が必要でしたが、今後は9人でも運営できるということです。

「え? 職員が減るってこと?大丈夫なの?」と不安に感じる方も多いと思います。

ここで大事なのは、この「3:0.9」への移行が無条件で認められているわけではないという点です。

この新しい基準は、国(厚生労働省)が定めた特別な制度で、以下のような条件を満たした老人ホームだけに許される運用です:
1. 入居者の安全や職員の負担を軽減するための対策をきちんと話し合っていること
2. センサーや見守り機器などのテクノロジーを活用していること
3. 職員の役割分担や業務内容を工夫していること
4. データに基づいて、介護の質と職員負担の改善が確認できること

つまり、「人を減らすけど、その分テクノロジーや工夫で質を保っている」ことが前提です。言い換えると、「人を減らす」のではなく、「ムダを減らして効率を上げる」という考え方に近いのです。

老人ホームとDX(デジタルトランスフォーメーション)の関係

今回の「3:0.9配置」は、実は介護業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環と捉えることができます。

DXとは、ITやテクノロジーを使って業務を効率化し、働き方やサービスの質を大きく変えていくことを指します。これまで「人の手」に頼ってきた老人ホームの現場に、カメラ、センサー、AI、クラウド型記録などの技術が導入されてきています。

たとえば
• ベッドに設置されたセンサーで、入居者が起きたかどうかがリアルタイムでわかる

• ナースコールが鳴らなくても、転倒の兆候を検知できるAIカメラ

• 職員同士の連携をスムーズにするスマートフォンアプリ

• 記録業務が自動化され、夜勤中の書類仕事が大幅に軽減される


こうした「人の目と手」をサポートする技術の進化により、「以前よりも少ない人手でも、同じかそれ以上のサービスが提供できる」という環境が整ってきました。

今回のSOMPOケアの取り組みは、このテクノロジーを積極的に取り入れて、実際の老人ホーム運営にDXを反映させた「モデルケース」と言えるでしょう。

これからの老人ホームはどうなる?DXを取り入れた介護業界の未来予想

今回のニュースは、介護業界全体の今後を占う重要な動きです。

介護業界は今、慢性的な人手不足という課題に直面しています。少子高齢化が進むなか、老人ホームの需要は増える一方で、働き手の確保は年々難しくなっています。これに加え、職員の高齢化や離職率の高さなども重なり、「人を増やすことができない」現場が全国に広がっています。

そんな中で、今回のような配置基準の見直しは、人手に頼らない新しい老人ホーム運営のあり方として注目されています。

もちろん、すべての老人ホームでいきなり「3:0.9」が実現できるわけではありません。高度な機器を導入するにはコストもかかりますし、スタッフの教育や体制整備も不可欠です。

ただ、SOMPOケアのような大手が先陣を切ることで、技術の標準化が進み、中小規模の老人ホームにもノウハウやツールが広がっていく可能性があります。

これからの老人ホームは、「人の力」と「技術の力」を組み合わせることで、より安全で、より効率的なケアが可能になる時代に突入するのかもしれません。

利用者やご家族が知っておきたいポイント

老人ホームに入居を検討している方や、そのご家族にとっては、こうした新しい制度や運営方法を知っておくことが非常に重要です。

たとえば見学や相談の際には、
• 人員配置はどうなっているか
• 見守り機器やテクノロジーは導入されているか
• 職員の負担軽減のために、どんな工夫をしているか

といった疑問を持つことで、業務改善がされているか、DX等により効率的に業務が回っているか、その老人ホームが時代に合った運営をしているかどうかを見極める材料になります。

まとめ:介護の未来を支える“見えない力”に注目を

今回の「3:0.9配置」への移行は、数字だけを見ると「職員が減る=不安」と感じるかもしれません。

しかし実際には、老人ホームの現場で働く人々が、テクノロジーを活用しながら、限られた人手でも高品質なケアを提供できるように努力している表れでもあります。

老人ホームは、単なる「高齢者の住まい」ではなく、日々進化し続ける「ケアの最前線」でもあります。

これから老人ホームを選ぶ方も、働くことを考えている方も、ぜひこうした新しい動きに目を向けてみてください。介護業界は、静かに、そして確実に「次のステージ」へと歩み始めています。

目指すべき介護は、DXを推進した「効率的介護現場」なのかも知れないですね。
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